「ノーベル賞の酒」。
時としてそう呼ばれる酒が、酒どころとして知られる兵庫・灘にある。神戸酒心館(神戸市東灘区)が醸す「福寿」だ。
南部陽一郎、小林誠、益川敏英の3氏が物理学賞、下村脩氏が化学賞を受賞した2008年のノーベル賞。このとき、スウェーデンのストックホルムで開かれた公式の晩餐(ばんさん)会で供された。その後も、たびたび晩餐会で出されてきた。
「輸出に力を入れ、欧州の輸入業者と関係を築いてきた成果のひとつです」。安福武之助社長(51)は言う。
武之助さんが大手ビール会社での勤務を経て神戸酒心館に入社したのは、03年のこと。中に入ってみると、目に見える課題がふたつあった。
ひとつはつくり手の高齢化だ。もともと酒造りは、農業や漁業をなりわいとする人たちが担っていた。だが、農漁業の高齢化とともに、そうした人たちも減っていった。
このままでは長くは続かない。そう考えて、05年からは社員での酒造りに切り替えた。
もうひとつは、日本酒市場の縮小だ。国内に目を向ければ、人口減もあって拡大は望めない。
だから、海外の見本市などに…